いまや個人でも副業でeコマースを始められるようになりましたが、より大きな規模でEC事業を立ち上げようとする人も増えています。ECのおかげで個人にも起業のアイデアや選択肢が増えましたが、法人化してEC事業に取り組んでいる会社もたくさんあります。

EC産業の市場規模が拡大する中、EC事業の立ち上げを検討されている方のためにこの記事ではEC事業の始め方を分かりやすく解説していきます。

EC事業とは

EC事業とは、電子商取引(eコマース)を事業化することを言います。例えばファッションブランドのネット通販ビジネスを考えている場合、これはEC事業ということができますが、自分の身の回りの中古品をネットで転売しようと思っている場合は必ずしもEC事業とは言えません。

EC事業はアマゾンや楽天などが代表的ですが、そのほかにもアパレルに特化したZOZOや家電量販店のヨドバシカメラやビックカメラもネット通販に進出して大手のEC事業となっています。

成長するEC事業規模

経済産業省の市場調査によると2021年までにB to C(事業者から個人消費者向けの電子商取引)の市場規模は約20兆円にまで拡大し、B to B(企業間の取引)で見ると370兆円規模にまで成長しています。

2020年の世界的な新型コロナウィルスのパンデミックがあったことで巣ごもり消費が加速し、ネット販売などのEC事業が大きく拡大しましたが、その後もEC事業は成長していることがわかります。

EC事業のグラフ

出典:経済産業省

特に物販系分野での伸びが大きいため、家電製品やファッション衣類などをオンラインで購入する人が増えていると考えられます。家電量販店やファッションブランド、小売店なども従来の店舗からEC事業部を立ち上げてオンライン販売に力を入れており、これがEC事業の市場規模拡大の要因となっています。

EC事業の特徴

起業の成功例を見ると柔軟にその時々にあったビジネス戦略を取り入れていますが、今の時代はやはりインターネットに対応した取引ができないと成功できません。以下ではEC事業のメリットとデメリットを見ていきます。

EC事業のメリット

インターネットを使ったEC事業の最大のメリットはやはり実店舗を設けなくてよい点でしょう。店舗を持たず倉庫だけで運営したり、実店舗数を縮小したりすることでコストも安くすることができます。

また、遠隔地にも商品を届けることができるため顧客や販売地域を拡大できるのも大きな利点です。サプリや健康食品など定期購読が必要な商品は顧客が一度サブスクすると定着し、リピート率が上がるのもEC事業ならではの強みです。

オンラインによるビジネスのためコンテンツマーケティングを通して商品を効果的に販促することができます。大手の小売店では販売されていないような地方の商品もSNSマーケティングなどを通じて全国的に知名度を上げることができれば売り上げも拡大させられますので、ブランディングマネジメントの面でもEC事業は大きな優位性があります。

EC事業のデメリット

EC事業の最大のデメリットとして挙げられるのは競争の激しさでしょう。インターネットを使って誰でもEC事業を立ち上げられるということは、競合他社も同じようにEC事業を立ち上げることができるということです。分野によってはEC事業の方でも過剰な市場競争にさらされる可能性もあるため、ウェブサイトのクオリティだけでなくSEO対策などを効率よく行うことで少しでも他社よりも市場における優位性を高める努力をしなければなりません。

また、取引がオンライン上であることから顧客とのコミュニケーションも取りづらく、悪評や風評被害が発生した場合に対処しにくいことがデメリットとして挙げられます。自分ではわかりやすく製品紹介をしたつもりでも顧客に正しく伝わっておらず「この商品は詐欺だ」と口コミサイトなどで悪い噂を立てられてしまうと一気に信用度が下がってしまって経営悪化に直結してしまいます。店舗で客と店員が面と向かってコミュニケーションが取れるわけではないので顧客管理が簡単というわけではないのも弱みでしょう。

さらに集客の難しさもEC事業によくあるデメリットです。実店舗のように地理的優位性が活かせないため、顧客を惹きつけるには各社でマーケティング努力をする必要があります。最近ではスマホの普及によって誰でも動画マーケティングを行うことができますし、Twitterを運用することで不特定多数の人にマーケティング活動を行うこともできます。スマホアプリのLINE集客ツールも効率よく利用すると効果的ですが、一般的にEC事業は集客が難しいということも理解しておきましょう。

EC事業のメリット:

  • 実店舗がいらないのでコストカットできる
  • 遠隔地にも販売できる
  • 固定客が定着し、リピート率が上がりやすい
  • コンテンツマーケティングがしやすい
  • ブランドマネジメントがしやすい

EC事業のデメリット:

  • 競争率が高い
  • 顧客とのコミュニケーションが取りづらく顧客管理が難しい
  • 根拠のない悪評が流れても改善しづらい
  • 集客が難しい

EC事業部を立ち上げる方法

起業の準備段階でEC事業部を立ち上げることを検討している方はこちらのステップガイドを参考にしてみてください。ネットビジネスは簡単に始めることができますが、利益を出し続けることが難しいです。

EC事業部の立ち上げステップ1:販売する商品を選ぶ

ECで販売するからと言って何でも売れるとは限りません。まずはどんな人が何を買っているのかをしっかりと調べましょう。トレンドの商品を調査し、EC事業として展開する優位性を客観的に見定めてください。

例えば化粧品を売るにしてもオーガニックにこだわった化粧品にすればニッチな客層をターゲットにしやすくなります。

EC事業部の立ち上げステップ2:EC事業計画を立案する

これは企業によってはEC事業部の仕事になるかもしれませんが、どんな商品を、どんな客層に、どうやって販売するのかというコンセプトを固めましょう。事業計画の中では通常3年から5年の5カ年計画のようなものを策定し、いつまでに黒字化を目指すのかなども検討します。ECシステムの場合、減価償却は会計上は5年単位で行われることが多いので、EC事業も5年ベースで考えると良いでしょう。

短期・中期・長期の展望を意識してビジネスプランを構築しましょう。

EC事業部の立ち上げステップ3:競合他社と市場環境を徹底分析

これはステップ1でも行う必要がありますが、競合他社が存在しない市場はよっぽどニッチな分野をターゲットにしない限り、まずありません。ブルーオーシャンとまで言わなくてもある程度競合他社が少なく、自社の優位性があると思われる分野でEC事業を立ち上げると決めたら、このステップでは競合他社を徹底的に分析していきましょう。

競合分析をする方法は様々あり、ビジネスを取り巻く外的要因を分析するにはPEST分析が非常に効果的です。自社の狙っている市場の政治的要因や経済的な条件、社会的・技術的ファンダメンタルズを見極めやすくなります。

またSWOT分析によって自社の強みと弱み、競合他社が持っている機会と脅威などを客観的に整理して分析することができます。

マーケティング手法としては3C分析も有効で、自社・顧客・競合他社の3点に焦点を当てた分析手法でマーケティングを最適化することができます。

EC事業部の立ち上げステップ4:ブランド戦略を定める

上記でも述べたようにEC事業のメリットはブランドマネジメントがしやすい点にあります。そのためEC事業を立ち上げる際にはブランド戦略をしっかりと構築することが何よりも大事です。

ユーザーをどのように引きつけ、ブランド認知やアイデンティティなどさまざまな要素を体系的に決める大事なステップになります。これはステップ3で行った分析結果が大きく反映されることになります。

EC事業部の立ち上げステップ5:ロジスティックの検討

ビジネス戦略などが構築できても肝心の商品が用意できていなければビジネスが始められません。どこから商品を仕入れて、どこに在庫を保管するのか、どのような販売・輸送経路で商品を届けるのかなど商品の仕入れから納品までのすべてのロジスティックに関して検討しましょう。ここで予算上の問題が生じれば、まだビジネスプランの見直しも可能です。

EC事業部の立ち上げステップ6:ECサイトをつくる

自社ですでにウェブサイトなどを持っている方はこちらをスキップできますが、ゼロからEC事業を立ち上げる場合には自社のECサイトをつくる必要があります。自社のブランド戦略やビジネスプランに適したウェブデザインを行うようにしましょう。

EC事業立ち上げにかかるコスト

EC事業と言ってもその種類はピンキリで、情報商材の販売なら仕入れコストはゼロに近いですが、家電製品など実際の商品を販売する場合には仕入れコストから在庫管理の費用、輸送費用などかかってきます。特に起業したばかりだと起業資金も限られているため、事前にしっかりと予算を見積もることが大事です。

EC事業の初期コスト

EC事業を立ち上げるには以下のような初期コストが考えられます。

  • ECサイト制作費
  • ECカート決済システム導入費用
  • カメラ撮影や備品の購入費
  • 梱包資材

EC事業立ち上げに伴う起業の費用の多くは、まず最初にECサイトの制作費が挙げられます。そのほかに決済に必要なシステムを導入したり、ウェブページに掲載するための商品の写真を撮影する場合はカメラや備品の費用がかかってきます。また販売する商品によっては梱包資材も必要になります。

EC事業のランニングコスト

ランニングコストとは継続して発生するコストのことですが、EC事業の運営に関わる費用などは継続してかかりますのでランニングコストとなります。

EC事業のランニングコストは以下のようなものがあります。

  • 広告・宣伝費
  • ロジスティック関連
  • 決済手数料
  • サーバー費

まずはEC事業で必要な広告・宣伝費は継続して発生するコストになります。メールマーケティングインフルエンサーマーケティングなどを活用すればその経費は大きくなる可能性もあります。

また、取り扱う商品によっては商品の仕入れや発送にコストが発生し、これはロジスティック関連の費用になります。ECサイトによってはそのプラットフォームを提供する会社に売り上げの一部を決済手数料として納入しなければなりませんので、売り上げが増えれば増えるほど決済手数料などのコストも大きくなります。

もしもオープンソースを使って自社独自のECサイトを作る場合はサーバーもレンタルする必要があり、これも月々、もしくは年単位で支払う必要があります。

以上を見るとEC事業は必ずしもネットで物を売ればよいというだけのビジネスではなく、実店舗運営ではなかった様々な費用が発生することが分かります。いきなりEC事業で失敗しないためにもしっかりとビジネスインテリジェンスを身につけてからEC事業を立ち上げるようにしましょう。

EC事業をはじめる前のアドバイス

当サイトではEC事業を始める上での経験者からのアドバイスをまとめました。EC事業の起業の成功者から学べることを凝縮しましたのでぜひ参考にしてください。

EC事業者からのアドバイス1:“シンプル”から始めてみる

まず小さい規模からECサイトの運営を始めてみましょう。まずは無料版のECサイトでもよいので少ない仕入れから少ない商品数で始めてみると良いでしょう。

EC事業とは必ずしもアマゾンのように大きなネット通販であるわけではありません。小さいビジネスも大きいビジネスも経営方法は同じですので、まずはシンプルに小さいことから始めてみることがおすすめされています。

EC事業者からのアドバイス2:“顧客ロイヤリティ”を育てる

ビジネス戦略にもよりますが、必ずしも薄利多売のビジネスモデルである必要はなく、ニッチな顧客層の心を掴むクオリティの高い商品を売ることもEC事業ならでは可能なビジネスモデルです。

例えば塩の販売でも地方の海でとれた大変希少な塩であれば販売数や需要は大きくなくとも単価を上げることができるため高い売り上げを見込むことができます。そして単に売るだけでなくその商品に魅了された顧客を増やすことでリピート率を高めることができ、安定した売り上げを見込むことができます。顧客ロイヤリティの高め方はリンク先の記事で解説していますのであわせて確認してください。

EC事業者からのアドバイス3:マルチな商品に先行投資

顧客ロイヤリティを獲得できたらある程度固定客がいるということです。そうなったら次には商品のラインナップを拡大するため先行投資をしていくとよいとされています。

上の塩の例で言うと、塩にこだわりを持ったEC事業店舗と顧客が見事にマッチングすることで強い絆が生まれますが、これらの人が塩に飽きてしまう可能性もあります。そこで塩に関連したスイーツや食べ物、健康商品など関連製品を少しずつマルチにひろげていくことで顧客の定着率を高め、さらに新規の顧客を獲得する良い機会となります。

また、自社のEC事業が高い優位性とブランド力を持つようになれば根強いファンも現れてきますので、このような人たちをブランドアンバサダーとすることで自社製品の魅力をほかの人にも宣伝してくれるようになります。

EC事業者からのアドバイス4:信頼できるチームで運営

起業の失敗でも紹介したようにチームや人材のマネジメントで多くの起業家はつまづいてしまいます。EC事業というと少ない人の数で行えるような印象を持っている人もいますが、実際にはECページの運営から商品の仕入れ、発送、顧客管理、在庫管理など幅広い部署や人との連携が必要不可欠になります。また、規模が拡大していくにつれて携わる人や資金が増えるとそれだけ考え方の違いなどから衝突も増えます。

そのため、仕入れ先や外注先との関係を良好にして働くためにも、信頼できるチームで仕事をすることが何よりも大事です。

EC事業まとめ

この記事ではEC事業を立ち上げるために役立つガイドを解説し、EC事業を運営する上で必要なノウハウやアドバイスを紹介してきました。eコマースは個人でもできる時代ですが、企業として組織的に行うと大きな収益が可能となります。

EC事業はコンテンツマーケティングとブランドマネジメントがしやすい特長があり、地方の無名な店舗でも戦略次第で人気ブランドやメーカーとなることができます。

EC事業者になろうと考えている方やEC事業部を立ち上げようとしている方は、本記事のEC事業の立ち上げ方を参考にしてみてください。